こんにちは、洋平です。
行政書士が請け負える業務の1つに「成年後見業務」がありますが、
「手間がかかるだけで儲からない」と敬遠しているケースが少なくありません。
本当に手間がかかるだけで儲からないのかなど行政書士の成年後見業務について
詳しく見ていきましょう。
成年後見業務とは
行政書士にとっての成年後見業務は
・成年後見についての相談
・任意後見契約書の作成
・成年後見人を務める
などを指します。
一般的に成年後見業務は「成年後見人を務める」ことだけを指すと考えられがちですが、
実際には成年後見制度利用に関する業務全般を指すのです。
自分自身や家族など身近な人に成年後見人が必要となった場合に
・誰を選任するのか
・どういった手続きを行うのか
など分からないことが多いです。
そもそも本人が成年後見人を選任できる条件を満たしているのかどうかすら
分かりません。
成年後見人の選任だけでなく成年後見制度の基本的なことに対する
相談に乗ることも行政書士にとっての成年後見業務となります。
成年後見人の申し立て手続きは行政書士にはできない
詳しくは後述しますが、
成年後見人を選任するには家庭裁判所への申し立て手続きが必要です。
成年後見人の申し立てに必要な書類の作成は司法書士、
手続き代行は弁護士の業務となっており行政書士が請け負うことはできません。
行政書士が行えるのは成年後見制度利用に関する事前相談や任意後見契約書の
作成、成年後見人を務めることぐらいです。
成年後見制度を利用したいという顧客が居る場合には、
相談に乗った上で知り合いの司法書士や弁護士を紹介してあげると良いですよ。
成年後見業務で行政書士は儲かる?
成年後見制度で行政書士が儲かるかどうかは正直なところ非常に微妙です。
相談を受ける、任意後見契約書を作成するといっただけの業務では
ハッキリ言って儲かりません。
ただ行政書士が成年後見人を務める場合には、
毎月報酬が入ってくるのでそれなりに儲かります。
行政書士が成年後見人を務める場合の報酬相場は大体月5~6万円ですから、
年間60~70万円の収入となります。
成年後見人は専任ではなく複数人の後見人を務められるので、
5人6人と後見人を務める人の数が増えれば収入も増えることになるのです。
日本は超高齢化社会に突入しており、
少子化が解消されない限りは高齢者の割合が増える一方です。
高齢者が増えると言うことは後見を必要とする人も増えることになるので、
行政書士にとっては成年後見業務は儲かる分野になる可能性が大いにあります。
ただし成年後見制度の書類作成や手続きの代行が行政書士にはできないので、
どうやって成年後見人として選任してもらうかがポイントとなります。
成年後見制度とは
行政書士の成年後見業務は成年後見制度利用に関する業務全般を指しますが、
そもそも成年後見制度とはどういったものなのでしょうか?
成年後見制度とは、知的障害や精神障害あるいは認知症などで判断能力が
十分でない人に代わって第三者が法的行為が行えるようにする制度のことです。
要するに障害を持つ人や高齢者が詐欺や悪徳商法などで大切な財産を失うことを
防ぐことを目的とした制度です。
成年後見制度に基づいて本人に代わり法的行為を行う第三者のことを
「成年後見人」と呼びます。
いくら家族でも本人に代わって法的行為を行うことはできないので、
成年後見人を選任するには家庭裁判所への申し立てが必要です。
家庭裁判所に申し立てて認められることで成年後見人の法的効力が発生して、
十分な判断ができない本人に代わって法的行為が行えるようになります。
2種類の成年後見人
一口に成年後見人と言っても
・法定後見人
・任意後見人
の2種類があります。
「法定後見人」は、成年後見が必要な本人が既に十分な判断力を有していない場合に
家庭裁判所が選任する後見人です。
「任意後見人」は、将来的に判断力が不十分になる可能性がある本人が前もって
指名する後見人となっています。
法定後見人は選任された時点から法的効力が認められますが、
任意後見人は本人の判断力が不十分となった時点から法的効力が発生します。
法定後見人の申し立てができるのは基本的に本人と配偶者、
四親等内の親族だけです。
ただし配偶者も親族も居らず、
本人が申し立てできない状態の場合には検察官や市町村長が申し立てが行えます。
法定後見人には3種類ある
成年後見人は法定後見人と任意後見人の2種類に分かれますが、法定後見人は
・後見人
・保佐人
・補助人
の3種類にさらに分かれています。
法定後見人の種類は後見が必要な本人の判断力の程度によって分けられます。
例えば認知症の高齢者だと、以前より物忘れが多くなった・注意力や集中力が
低下しているといった軽度の場合に選任される成年後見人は補助人です。
自宅を忘れるほど物忘れが激しい、人の話が理解できなくなってきているといった
中等度の認知症だと「保佐人」が選任されます。
さらに症状が進んで重度の認知症と診断された場合には「後見人」を選任することに
なります。
後見人は財産に関わる全ての行為に代理権が与えられて、
後見人の同意無しに行われた法的行為は基本的に全て取り消し可能です。
保佐人の代理権は家庭裁判所が定める範囲内に限られ、
借金や相続、訴訟などの法的行為を行うには保佐人の同意が必要です。
補助人は代理権も同意が必要な法的行為も家庭裁判所が定める範囲内に限られます。
成年後見人に選任される人とは
成年後見人に選任されるのに必要な条件は特に無く、
家庭裁判所に認められれば基本的には誰でも成年後見人になれます。
ただし欠格事由が設けられており、以下の事由に当てはまる場合は成年後見人に
なれません。
・未成年者
・過去に家庭裁判所から成年後見人を解任されたことがある者
・破産者
・被後見人に対して訴訟を起こしているもしくは過去に訴訟を起こしたことがある者と
その配偶者、直系血族
・行方不明者
最高裁判所が2019年に「後見人は身近な親族が望ましい」という考えを示したため、
配偶者や子、兄弟などの親族が成年後見人となるケースが多いです。
親族に成年後見人に適した人が居ない場合には、
・弁護士
・司法書士
・行政書士
・社会福祉士
などのいわゆる士業が専門職後見人として選任されることがあります。
成年後見人が親族だと無報酬となることが多いですが、
専門職後見人を選任する場合には報酬が発生します。
成年後見人は法人も選任可能
成年後見人は個人である必要は無く、
法人を成年後見人として選任・指名することも可能です。
個人だと高齢や病気などの理由で成年後見人として責務が果たせなくなる恐れが
あります。
法人だと倒産や解散をしない限りは成年後見人としての責務が果たせなくなる心配が
ありません。
法人が成年後見人となるケースは多くないですが、
行政書士など士業を選任する場合には法人として成年後見人を務めることもあります。
また成年後見人は1人である必要は無く、複数人を選任・指名することも可能です。
特に法定後見人の後見人は代理権の範囲が広く負担が大きいですから、
複数人を選定して役割を分担することもあるのです。
ただ法人や複数人を成年後見人に選任・指名した場合は、
重要な意思決定に際して即断即決ができない恐れがあります。
成年後見人ができること
成年後見人は後見が必要な本人に代わって何でもできるわけではなく、
できることの範囲が限られています。
成年後見人の主な役割は以下の2つです。
・療養看護
・財産管理
「療養看護」は日常生活の介護や介助ではなく、
本人に代わって契約などの法的行為を行うことです。
「財産管理」は後見が必要な本人が生活していくための財産を管理・保全する役割と
なります。
財産管理については現状維持が原則となっているため、
資産を運用して財産を増やすことも基本的にはできません。
また不動産の売買など財産の増減に関わる契約を結ぶ際には、
事前に家庭裁判所に確認を取ることが必要です。
さらに成年後見人には年に1回の後見等事務報告を家庭裁判所に対して行うことも
課せられています。
1年間に後見人として行った行為を報告書としてまとめて家庭裁判所に提出するのです。
報告を怠っても特に罰則などはありませんが、
別途専門職後見人や後見監督人が選任されることもあります。
場合によっては任務違反として家庭裁判所から成年後見人を解任される恐れも
あるので注意してください。
成年後見人にできないこと
成年後見人ができないこととして
・事実行為
・身分行為
の2つが定められています。
「事実行為」は簡単に言うと身の回りの世話のことで、
食事や入浴、トイレの介助や病院への送迎、付き添いなどを指します。
後見が必要な本人に介護や介助の必要が生じた場合には、成年後見人自らが
介護・介助を行うのではなく別途介護サービスなどを利用することになるのです。
ただし親族であれば成年後見人であっても、
事実行為である介護や介助などの身の回りの世話ができます。
「身分行為」は身分の取得や変更に関わる法的行為のことで、簡単に言うと
・婚姻
・離婚
・養子縁組
・子の認知
などのことを指します。
遺言書の作成も身分行為に含まれるので、
本人の代わりに成年後見人が遺言書を作成することもできません。
婚姻は「両性の同意のみに基づいて成立」するものと憲法で規定されていますし、
離婚も基本的には両者の同意に基づいて成立します。
(「」内は引用)
養子縁組と子の認知も当事者の同意が必要ですから、
成年後見人とは言え第三者が代わりに行うことはできないのです。
親族が成年後見人を務める場合の注意点
親族が成年後見人を務める場合には注意しておかないといけないことがあります。
たとえ親族であっても成年後見人は後見が必要な本人の財産を守ることを
最優先しなければいけません。
財産を守ることが最優先なので、成年後見人が被後見人の財産を私的に利用すると
親族であっても業務上横領になる恐れがあります。
本人の生活に必要な物やサービスを購入・利用するのに財産を使っても良いですが、
それ以外のことには1円たりとも財産を使うことは基本的にできないのです。
贈与や貸付といったことも財産を減らす行為とみなされてできませんから
注意してください。
成年後見制度の申し立て手続き
成年後見制度の申し立て手続きは行政書士の業務ではありませんが、
手続きの流れを簡単に紹介しておきます。
まず手続きに必要な書類を作成・収集して、本人・配偶者もしくは四親等内の親族が
申立人となって家庭裁判所に申し立てを行うのです。
本人が申し立てできる状態でない上に配偶者や親族も居ない場合には、
検察官や市町村長が申立人となることもあります。
家庭裁判所は提出された書類を元に審理を行い、
成年後見人が必要か否かを裁決します。
成年後見人が必要と認められると法務局で成年後見人登記が行われて、
成年後見人に登記完了の通知が届くのです。
登記完了の通知が届いたら財産目録などの必要書類を作成して家庭裁判所に
提出することで正式に成年後見人としての務めが始まります。
前にも書きましたが、法定後見人の場合は登記後に必要書類を家庭裁判所に
提出したらすぐに成年後見人となります。
任意後見人は手続き後すぐに成年後見人としての効力が発生するわけではなく、
被後見人の判断力が不十分になった時点から成年後見人となるので注意が必要です。
成年後見制度の申し立て手続きにかかる期間
申し立てをしてから成年後見人が選任されるまでにかかる期間は
大体3~5か月程度とされています。
後見を必要とする本人の状態次第では手続きの一部が簡略化されることもあり、
手続きに必要な期間が短縮されるケースもあります。
成年後見制度の申し立てを行う際には、戸籍謄本や住民票などの本人確認書類、
不動産登記簿謄本や通帳などの財産に関する書類などの提出が必要です。
家庭裁判所の審理では本人確認や財産に関する書類の照会や医師へのお伺いなどを
行うため数か月という期間がかかるわけです。
後見が必要な本人の状況や状態によっては早く後見人を選任しないといけないことも
あるので、手続きは早めに行いましょう。
成年後見制度の申し立てにかかる費用
成年後見制度の申し立てを行うのに必要な費用は大体10万円ぐらいと
考えておきましょう。
申し立てそのものにかかる手数料は800円で、
戸籍謄本など手続きに必要な書類の多くも数百円から数千円程度で取得できます。
ただ申し立てには医師の鑑定や診断書も必要で、
これらの取得に10万円近くかかることがあるのです。
また司法書士に書類作成を依頼すると10万円前後、
弁護士に手続き代行まで依頼すると20万円前後の費用が別途かかります。
専門職後見人を選任する場合にはさらに別途月額費用も発生します。
後見が必要な本人の状況・状態や誰に依頼するかで金額は変わりますが、
大体の相場は月5~6万円です。
まとめ
成年後見制度の手続きで行政書士が関われることは少ないですが、
成年後見人を務められれば行政書士にとって儲かる分野となります。
ただ成年後見人は被後見人の財産を守るという非常に重い責任を負っており、
儲かるからと軽い気持ちで受けられる業務ではありません。
専門職後見人を養成する団体がありますから、成年後見業務を請け負うなら
専門職後見人に関する研修を受けることをお勧めします。