こんにちは、洋平です。
今回は行政書士の「事務所」について、登録に必要なのかや行政書士事務所とする
物件に求められる要件など詳しく見ていきましょう。
事務所は行政書士に絶対必要
まず行政書士として登録するのに事務所が必要かどうかですが、
これは「絶対に必要」です。
行政書士は国の制度に基づいて定められている「国家資格」で、
その身分は「行政書士法」という法律によって一定程度保証されています。
その行政書士法の第八条に「行政書士(中略)は、
その業務を行うための事務所を設けなければならない」と記されているのです。
(「」内は引用)
行政書士として開業するには事務所が必要で、
事務所なしだと行政書士登録ができないことになります。
中には「行政書士としての仕事が軌道に乗るまでは事務所なしで、
軌道に乗ったら事務所を構えよう」と考えるケースもあるかもしれません。
しかし事務所なしでは行政書士として仕事をすることができませんから、
行政書士を目指すなら事務所についてもしっかりと考えておきましょう。
行政書士法人に就職するなら事務所は不要
行政書士として「開業」するなら事務所は必要ですが、
行政書士として行政書士法人に「就職」する場合は事務所は不要です。
行政書士法の第八条の3に「使用人である行政書士は、
(中略)事務所を設けてはならない」と記されています。
(「」内は引用)
独立・開業する場合は使用人ではなく自らが代表となりますから、
業務を行うための事務所が必要となります。
しかし行政書士法人に就職する場合は、行政書士法人に雇われている社員
すなわち使用人となるので反対に事務所を設けてはいけないのです。
就職先となる行政書士法人は当然事務所を持っているので、
行政書士法人の事務所が使用人である行政書士の事務所となるわけです。
行政書士法人の就職は超難関
行政書士登録には20~30万円の費用がかかりますが、
行政書士法人に就職するとその費用を立て替えてもらえることがあります。
事務所となる物件の準備も不要ですから、
行政書士法人に就職すれば開業するよりもお金をかけずに済む可能性が高いです。
「それなら開業せずに行政書士法人に就職しよう!」と考えるかもしれないですが、
行政書士法人への就職は超難関となっています。
日本全国に行政書士事務所は約5万軒あるものの、
その内2人以上の行政書士が所属する行政書士法人は600軒余りです。
その全てが常時行政書士を募集しているわけでなく、
全国で100軒程度が募集を行っていれば多い方なのです。
この10数年は毎年4000~6000人の行政書士試験合格者が出ていますし、
行政書士法人に就職することはかなり難しいというわけです。
基本的には行政書士登録をしないと行政書士と名乗ることも行政書士として
仕事をすることもできないので、行政書士として一般企業に就職することはできません。
そのため行政書士法人への就職が難しいと、
事務所を構えて開業するしか行政書士になる選択肢がないことになります。
1人の行政書士が2軒以上事務所を構えることもできない
開業してすぐは1軒の事務所を切り盛りするだけでも大変です。
しかし仕事が軌道に乗って依頼者が増えると、それこそ使用人行政書士を雇って
法人化し複数の事務所を構えて手広く事業展開しようと考えるかもしれません。
一般企業なら事業所や店舗を増やすことができますが、
行政書士が事務所を増やすことは法律で禁止されています。
行政書士法第八条の2に「行政書士は、(中略)事務所を二以上設けてはならない」
と記されているのです。
ですから、将来的に行政書士として大成功を収めても、
事務所を増やして全国展開するといったことはできないわけです。
(そもそも行政書士はどこに事務所があって全国で仕事ができる)
行政書士事務所はどんな物件でも良いわけではない
「事務所を借りるお金が無いから、
とりあえず自宅を事務所として登録しよう」というケースも少なからずあるでしょう。
自宅を行政書士事務所として登録することはできますが、
ちゃんと「行政書士事務所としの要件」を満たしていないといけません。
都道府県の行政書士会ごとに多少違いはあるものの、
・使用権限が適正である
・行政書士事務所としての「表札」を掲示する
・秘密が保持できる環境である
というのが共通した要件となります。
これら以外の細かい要件については多少大目に見てもらえることもありますが、
この3つの要件については1つでも欠けていると不適格と判断されてしまいます。
使用権原が適正である
まず「使用権限が適正である」ですが、これは簡単に言うと
「行政書士事務所として使うことが認められた物件かどうか」ということです。
持ち家一戸建てなどあなたが購入した物件であれば、
どのように使っても自由なので使用権原については何の問題もありません。
ただ購入した物件でも名義があなたではなく配偶者や親など親族になっている場合は、
所有者である親族の承諾が必要となります。
また購入物件でも分譲マンションの一室だと、
いくら所有者があなた自身でも自由に使うことができません。
分譲マンション自体の所有者であるオーナーや建物の管理を委託されている
管理会社に承諾を得ることが必要です。
さらに入居者で作る管理組合に行政書士事務所として使いたい希望を伝えて、
総会などで承認してもらうことも必要となります。
賃貸の場合は戸建て・集合住宅に関係無く建物の所有者の承諾が必要で、
集合住宅だと管理会社や管理組合の承諾も得ないといけません。
登録時に使用権原に関する書面の提出が必要
賃貸や集合住宅ならともかく、持ち家一戸建てで所有者が親族だと
「別に承諾なんてもらわなくても」と思ってしまいそうですよね。
しかし行政書士登録の際には、事務所として使う物件の
・平面図、間取り図
・外観、内観の写真
・使用権原に関する書面
などの提出が必要となっています。
「使用権原に関する書面」は、
行政書士登録する本人の持ち家であれば「登記簿」を提出すればOK。
賃貸住宅なら建物の所有者の「使用承諾書」、
集合住宅だと所有者に加えて管理会社や管理組合の「承諾書」を提出します。
配偶者や親子といった近しい間柄でも、登録する本人以外の名義の建物を
事務所にする場合は建物の名義人の承諾書が必要です。
これから行政書士として公的書類作成や行政手続きを行うわけですから、配偶者や
親の承諾を得ずに使用承諾書を作るなんてことはしないようにしてくださいね。
必ず所有者本人の承諾を得て、
所有者本人が署名した使用承諾書を作成するようにしましょう。
マンションの一室を行政書士事務所にすることはできない?
マンションの一室を行政書士事務所とすることはできますが、
一戸建てよりも少しハードルが高くなっています。
賃貸でも分譲でもマンションなどの集合住宅では、
それぞれに独自の「規約」を定めています。
その規約に「住宅以外に使ってはならない」という内容が含まれていることが
結構多いのです。
「住宅以外に使ってはならない」という規約があっても、所有者や管理会社、
管理組合の承諾が得られればマンションの一室を事務所として使うことは可能です。
ただこの規約を盾にして、
「事務所としての使用は認められない」と言われてしまうことが十分に考えられます。
また「住宅以外に使ってはならない」という規約が無くても、不特定多数の人が
出入りする可能性があるので事務所として使わせないというケースもあります。
もし自分が住んでいるマンションに住人以外の人がたびたび出入りしているのを
見かけたとしたら、確かにちょっと不安を感じてしまいますよね。
そういったことで、分譲でも賃貸でもマンションの一室を行政書士事務所とするのは
一戸建てに比べるとハードルが高いというわけです。
不特定多数の人が出入りすることを理由に承認が得られない場合は、
「依頼者の元にこちらが出向く接客スタイル」であるとアピールしましょう。
実際に依頼者に事務所に来てもらうのではなく、
依頼者の元に出向いて相談を受ける行政書士も少なくありません。
行政書士が出向くスタイルであれば事務所に人が出入りする機会も減りますから、
他の入居者の不安が解消されて承認してもらえる可能性が出てきますよ。
行政書士事務所としての「表札」を掲示する
行政書士事務所として使う物件には、「ここは行政書士事務所だ」と分かる
表札や看板を掲示しないといけない決まりとなっています。
行政書士法とは別に「行政書士法施行規則」というものが定められていて、
その中に事務所に関する項目があります。
施行規則第二条の十四に「事務所に行政書士の事務所であることを明らかにした
表札を掲示しなければならない」と明記されています。
ですから事務所にする物件には、「○○行政書士事務所」などといった表札や看板を
取り付けておかないといけないわけです。
これも一戸建てなら比較ハードルが低く、行政書士事務所として使うことを
承諾してもらえれば表札や看板の掲示もOKとなる可能性が高いです。
ただマンションなど集合住宅に関しては、事務所として使うことは認められても、
外観を気にして表札や看板の設置は認められないこともあったりします。
別に表通りから見えなくても、
マンションの部屋に表札が掲げられていれば問題もありません。
とは言え表通りから表札や看板が見えないと、
そこに行政書士事務所があることが分かりにくく、依頼者が訪ねていきにくいです。
また「表から見えるところ看板が出せない理由があるのか?」と勘ぐられて、
依頼者の信用を得られにくくなるというデメリットもあります。
ですからマンションの一室を事務所として使う場合には、
使用承諾とともに表札や看板の設置についても承諾を得るようにしましょう。
表札や看板は登録時点では掲示していなくてもOK
行政書士事務所であることが分かる表札や看板は掲示しないといけませんが、
「いつまでに掲示すべきか」は決まっていません。
なので行政書士登録の時点では、
事務所に表札や看板が設置されていなくても大丈夫だったりします。
「表札は?」と聞かれたら、
「できるだけ早く設置するようにします」と答えれば良いですよ。
ただ都道府県の行政書士会によっては、登録時点で表札や看板を設置していないと、
設置予定の表札や看板を担当者に見せないといけないこともあります。
ですから、開業後すぐに設置しないとしても、
行政書士登録の時点で表札や看板は作っておいた方が良いですよ。
ちなみに表札や看板は、行政書士事務所であることが分かるものであれば
デザインやサイズなどに制限は設けられていません。
「○○行政書士事務所」だけのシンプルなもの、
事務所名に電話番号など連絡先を付け加えたものが一般的です。
中には「遺言・相続」など、
得意とする分野を書いた表札や看板を設置している行政書士事務所もあります。
秘密が保持できる環境である
3つ目の「秘密が保持できる環境である」という要件が、
行政書士事務所においては非常に重要となります。
いくら使用権原がクリアで表札や看板を設置していても、
秘密が保持できる環境でないと行政書士事務所として不適格と判断されてしまいます。
秘密が保持できる環境がどんなものか簡単に言うと、
1つは「依頼者との会話が第三者に聞かれる心配が無い」ということです。
例えば自宅を事務所とする場合であれば、
居住スペースと事務所スペースが明確に分けないといけません。
居住スペースと事務所スペースが明確に分かれていないと、
同居する家族に依頼者との会話を聞かれてしまう恐れがあります。
遺言や相続など他人にあまり聞かれたくない相談だと、
依頼者としても第三者に聞かれるかもしれない場所ではしにくいですよね。
もう1つは「事務所として独立していること」で、
事務所以外のスペースを通らずに事務所に入れるようになっていないといけません。
事務所としてのみ使う物件であれば特に気にしなくても良いですが、
自宅兼事務所の場合は重要な要件となります。
玄関は共通でも構いませんが、
居住スペースを通ることなく事務所スペースに入れるようにしておく必要があります。
建物の構造によっては、応接間を通らないと和室に行けないなど、
廊下と繋がってなくて他の部屋を通らないと入れない部屋があったりします。
居住スペースを通らないと事務所スペースに入れないと、
依頼者が同居する家族などに顔を見られる恐れがあります。
「別に顔を見られても構わない」という依頼者も居れば、
「行政書士以外とは顔を合わせたくない」という依頼者も居ます。
ですから事務所スペースが完全に独立していて、
居住スペースを通らずに事務所スペースに入れることが必要になるのです。
接客スペースと事務スペースもできれば分けた方が良い
依頼者の応対をする接客スペースと書類作成などの作業を行う事務スペースも、
できれば分けておいた方が良いですね。
これについて特に決まりはないので、
接客スペースと事務スペースが分かれていなくても問題はありません。
ただ接客スペースと事務スペースが分かれていないと、事務机の上に置いてある
書類やパソコンの画面などを依頼者に見られてしまう恐れがあります。
依頼者に関係のない書類などを見られるのは情報漏えいに繋がる恐れがあるので、
接客スペースと事務スペースは分けた方が良いのです。
スペースに余裕が無くて分けられない場合は、
接客スペースから事務机の上やパソコン画面が見えないように配置を考えましょう。
現地調査に備えて必要な設備を揃えておく
都道府県によっては書類だけでOKのケースもありますが、
行政書士会支部の支部長などによる事務所の「現地調査」が行われます。
その現地調査に備えて、
机や電話など行政書士事務所に必要な設備や備品を揃えておきましょう。
使用権原は書類だけで判断できますが、
秘密が保持できる環境かどうかは実際に事務所を見てみないと判断できません。
そのため現地調査を行って、行政書士事務所として適格かどうかを判断するわけです。
調査する担当者も人間ですから、あなたから「やる気」が感じられるかどうかで
多少判断が左右することも無いとは言えません。
もし事務所に机も電話も何も置かれていないと、調査担当者はあなたに対して
「本当に行政書士として仕事をする気があるのか?」と感じます。
そうなると事務所の悪い部分がばかリが目につき、
最終的に不適格と判断されてしまう恐れがあります。
反対に設備や備品が揃っているとやる気が感じられて、
多少の悪い部分には目をつぶってもらえる可能性も出てきます。
まとめ
行政書士が事務所を設けることは法律で定められたルールであり、
事務所なしで行政書士登録することは基本的にできません。
またいくつかの要件を満たした物件でないと、
行政書士の事務所として使うことはできなくなっています。
なので行政書士登録する際には、要件を満たしていることを確認した上で、
自宅を事務所とするか別で物件を借りるのかを検討しましょう。